TCAP’s VIEW & INSIGHTS #004 / ソーシャルビジネス戦略論(前編) - 社会的価値を最大化する | TCAP SOCIAL BUSINESS REVIEW online

TCAP’s VIEW & INSIGHTS #004 / ソーシャルビジネス戦略論(前編) - 社会的価値を最大化する

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例えばあるNPOで、5人のスタッフが1年間毎日全員で現場に赴き、困っている人に手を差し伸べる活動を検討しているとする。

これに対して、ある役員がこんな反対意見を述べた場合どうなるだろうか。

「最初の3ヵ月で企業とのコラボレーションによる寄付つき商品販売のビジネスモデルを構築し、
次の5ヵ月で実際に商品を販売、その収益を基に、最後の4ヵ月間で複数のNPOを使って数十人から百人規模で人員を動員し現場に出て活動する方が良いのではないか。5人で毎日現場に出る場合と、どちらが社会的価値を最大化出来ているだろうか。」

前者は本人達からすれば、毎日社会的価値の創出に取り組んでいる訳で、その意味では社会的価値の最大化を図っていると言えなくもない。しかし、あくまでソーシャルビジネスによって社会的価値の創出を目指すのであれば、後者のやり方を選ぶことになるだろう。(もちろんビジネスが失敗するリスクも考慮し決断するべきだが)

要するに、ソーシャルビジネスにおける真の社会的価値最大化とは、経済的価値創出を実施しながら、それをテコにより持続的かつ、より大きな社会的価値の創出に取り組むことなのだ。

ただし、ソーシャルビジネスにおける経済的価値は、これを最大化するものではなく、あくまで”最適化するもの”であることを忘れてはいけない。ソーシャルビジネス事業者が経済的価値の最大化を目的とし始めると、ソーシャルビジネスの本来の目的である社会問題の解決が置き去りになる可能性があるからだ。あくまで、社会的価値を創出する為に”最適な”レベルで経済的価値を創出することが重要となる。

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例えば、こんなケースを想定して見て欲しい。

社会的企業であるA社はソーシャルビジネスとして、途上国Bの伝統的な技術を利用した洋服を、現地のX地域の工場で生産し日本市場で販売。収益を得ながら、現地で雇用を創出し途上国の貧困問題解決に貢献している ― としよう。

A社は当初、社会的価値最大化を図る為に、販売の拡大に伴い途上国の別のZ地域に新工場を契約し、新たに雇用を創出する事を考えた。Z地域はこの途上国において、X地域と同じくらい貧困問題が深刻化している為、このZ地域での工場新設計画は社会的に大きな意味を持つものとして、多くの人々に歓迎された。

しかし、Z地域は道路、鉄道等の物流インフラが整っておらず、生産された洋服を港に運び、日本へ輸出するのにこれまでの1.2倍の物流コストがかかってしまう。このまま新工場での生産を開始すると、物流コストがA社の利益を押し下げ、これまでと同水準の利益を確保できないことが判明した。
(利益率は低下するものの、A社の存亡に影響を与える程とは言えず、A社の体力であれば受容可能な程度とする)

結局、一部の役員の反対により、A社はZ地域での新工場契約をあきらめ、同じくB国のY地域で新たな工場と契約した。Y地域は港から近い上、幹線道路も整備されており、物流コストも問題ない。更にそのY地域の新たな工場は、複数のアパレルメーカーの生産を受託しており、都市部にありながら生産コストは低い。(B国の伝統技術である特殊な染色を行ってはいるが、ある程度機械化されており効率が良い)

その工場で働く労働者は、先進国と比較すると低賃金であったが、B国内では比較的高い給与水準であり、貧困層と言えるかは微妙だ。
それでもA社は途上国Bにおいて伝統技術を使って生産した洋服として、日本市場でこれまで通りのブランドメッセージ、価格で販売を続けた―
 
このケースをどのように捉えればよいだろうか。
 
A社は、利益率を下げてでも、より社会的に必要とされているZ地域に進出すべきだったのだろうか。
もしくは、このケース通りに利益率を確保すべくY地域へ進出する方がよかったのか。

前者は経済的価値は下がるが、より大きな社会的価値を創出できたかもしれない。
後者は経済的価値がより高くなる選択をとることで、さほど助けが必要とされていない地域で生産を開始することとなってしまった ―

特に株式会社の形態をとる社会的企業はこのような状況に直面する事が多々あるはずだ。

このケースでは、Y地域に進出する選択は、社会的価値よりも経済的価値を重視した結果である、と理解することが出来る。
Z地域に進出する選択は、利益率を低下させるものの、依然として事業を継続するだけの十分に”適切な経済的価値”は確保可能であり、その上で、社会的価値の最大化が可能な選択肢である、と見ることが出来る。

今回のケースの”あくまで優等生的な”答えとしては、A社がソーシャルビジネス事業者として存在するのであれば、社会的価値最大化を最上位の目的として、Z地域への進出を選択すべきであった、と言うことが出来る。

念の為に追記しておくが、もちろんソーシャルビジネス事業者の状況によって正解は異なる。
将来的なZ地域への進出に備えるために、ひとまずY地域へ進出し資金を蓄える、という戦略的判断もあり得るし、また、経営の危機にある会社であれば、ひとまずY地域の工場にリソースを集中し、危機を乗り越えるという選択肢もあり得る。

ただ、状況によって一時的に経済的価値の創出を優先することはあるものの、
原則としては、ソーシャルビジネス事業者は社会的価値創出を優先すべきであることは変わらない。

社会的価値最大化と経済的価値最適化をソーシャルビジネスの戦略における論点とし、戦略立案に取り組む必要があるのだ。

では、ソーシャルビジネス事業者は具体的にどのような論点で、どのような手法で戦略を策定すればよいか。
次回以降のコラムで、ソーシャルビジネスにおける事業戦略の具体的な立案方法を説明していきたい。

(文/五十嵐裕一)



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