
SROIの「罠」- 使う前にSROIの意味を理解すべき
もう一度説明すると、SROIの計算式は、次の通りだ。
SROI=Net present value of benefits/Net present value of investment
Net present value of benefits:生み出された社会的価値
Net present value of investment:社会的価値を生み出す為に投入された価値
SROIは生み出された価値と投資の比率であり、これによって測定可能なのは、あくまで「効率性」だ。重要なことは、生み出された社会的価値が目減りしても、同じ比率で投資額を目減りさせればSROI自体は変わらないということだ。SROIは生み出された社会的価値の絶対値を図るものではなく、数字の解釈、資金を投入するタイミングでその値が変わってくるものなのだ。
例えば、あるソーシャルビジネスは初期投資が非常に大きく、一年目は1,000,000円換算の社会的価値を生み出したが、投資も1,000,000円であった、としよう。
すると SROI=1,000,000/1,000,000=1.0 である。
二年目は活動がうまくいかず社会的価値の金額換算が800,000円になってしまった。しかし、一年目の初期投資ほどの投資は発生せず、投資額は400,000円であった。
この場合、SORI=800,000/400,000=2.0である。
二年目は社会的価値創出が縮小しているにも関わらず、SROIは向上している。SROIだけを見ていると、二年目は一年目と比較し数値が向上しており、評価は「二重丸」になってしまう。
やや極端な想定であるが、このようなケースもあり得るのだ。
営利ビジネスの世界では投資に対する利益を測る指標として、ROE*が重視されるが、株主を前にひたすら効率性が重視される営利企業と、ソーシャルビジネスの世界は分けて考えた方が良い。
*ROE:自己資本利益率 株主資本に対する当期純利益の比率
また、社会セクターは短期的に実績を上げづらいケースも多いはずだ。活動を始めてからそれが根付き、効果が出るまでに数年(またはそれ以上)、といったケースもあるかもしれない。そのような場合、当面は投資が先行しSROIは低い数値になるだろう。
SROIが低いからと言って、投資家が短期で見切りをつける…ということが当たり前になると、ソーシャルビジネスの持続性に困難が生じてしまう。
社会セクターやソーシャルビジネスを評価する際には、まずは社会的価値の絶対値を見る必要がある。生み出した社会的価値が増えているか、確実に困っている人を救うことができているか。社会的価値の絶対値を確認した上で、その社会的価値は効率よく生み出されたものだろうか、といった視点でSROIを確認すればよい。
そして、事業によってSROIを管理する適切な期間を選択する必要がある。数か月のプロジェクトで成果を測定するものなのか、5年後に達成目標を置いてSROIを監視していくのか… この期間の選択を誤ると、事業の適切な評価が難しくなる。
このように、SROIを管理指標として導入するにあたって、注意すべき点は多い。その意味が十分に理解されないまま、SROIという指標が社会セクターの重要指標として先走りすぎると、目先の効率性に囚われてしまいかねない。
こうした「罠」に陥らない為にも、社会セクターやソーシャルビジネスなどの社会的な事業を評価する際には、生み出された社会的価値の絶対値とその成長性、そしてSROIを同時に見ていく必要がある。
短期的利益と効率性が求められてきた営利の世界と比べて、社会セクターやソーシャルビジネスの世界においては、SROIのような効率性指標はその意味を理解したうえで、より慎重に活用する必要がある。
営利の世界が陥った短期的収益性・効率性の罠に、社会セクターは陥ってはいけない。
(文/五十嵐裕一)
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[…] “TCAP’S VIEW & INSIGHTS #006 / 社会的価値をどう測るか ROEでもROIでもない”SROI”と、 ソーシャルビジネスにおける効率性の罠” http://sbr.tcap.jp/?p=1317 […]