
戦略方向性策定の意義
自社が対象とする社会問題の領域が決定し、その社会問題領域に打つべき打ち手の概要が決定したら、その打ち手をビジネスモデル化しなければいけない。打ち手を如何にソーシャルビジネスとして実現させるかを考えるのだ。しかしその前に、その社会問題の領域では、どのような方向性で社会価値が最大化されうるのか、ということを考えておく必要がある。これを検討しないと、必要とされない自己満足のソーシャルビジネスモデルが出来上がってしまったり、自社が実現しえない非現実的なアイデアを選択してしまうかもしれない。
通常のビジネスにおいて、市場で如何に競合に勝つか(例えばコストリーダシップか、差別化か、集中化か…等)を検討するのと同様に、ソーシャルビジネスの世界でも、戦略の大きな方向性をビジネスモデルを策定する前に考慮したほうが良い。
ソーシャルビジネスモデルの策定
社会価値の戦略方向性が決定したら、その大方針に従いビジネスモデルを策定していく。
このソーシャルビジネスモデル策定については別稿を参照して頂きたい。
TCAP’s VIEW & INSIGHTS #2 /ソーシャルビジネスをデザインする – TCAP ソーシャルビジネスモデル・フレームワークを解説
前編で社会価値最大化と経済価値最適化について述べたが、社会価値最大化に対して経済価値を如何に最適化するかは、このソーシャルビジネスモデル策定フェーズで検討していくことになる。
原則としては、戦略方向性策定⇒ソーシャルビジネスモデル策定と進む方が良いが、これは厳密なウォーターフォール型のプロセスにはならないことが多い。繰り返しこのプロセスを回していくことが必要になるかもしれない。
今回は計画型の戦略立案である
営利の世界では、戦略は計画型と創発型が議論されている。今回はどちらかというと計画型のプロセスを志向しているが、これは創発型を否定するものではない。このあたりは、また別の議論として今後取り上げていきたい。
SROI志向かSV志向か
最後に「社会価値最大化」についてもう少し補足しておきたい。
ビジネスの世界においては自社の業績向上を考えたときに、単純に売上を拡大する、売上向上が見込めない為コスト削減により利益を拡大する、売上・利益共に拡大する等、色々な考え方がある。
これはソーシャルビジネスにおいても同様だ。ソーシャルビジネスでは売上や利益は最優先の目的になることはあり得ないが、代わりに、創出した社会価値の大きさや、その社会価値を如何に効率的に生み出したかと言った視点で考えることができる。
TCAPでは前者のソーシャルビジネスによって創出した社会価値をSV(Social Value)と呼んでいる。また、後者は一般的にSROI(Social Return on Investment)という指標が使われている。
先に述べた4つの戦略方向性によって、SVの拡大を目指すのか、SROIの拡大を目指すのか、両方を拡大させるのか― どの方向性を目指すのかを考慮する必要がある。これについてはまた別稿で述べていきたい。
(文/五十嵐裕一)
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